巴里に出現したオーク巨樹での死闘から数週間が経ち、巴里には再び平和が戻り、破壊した街の復興が急ピッチで勧められていた。
そんな中、比較的被害が少なかったシャノワール周辺では、自然と人が集まり常に活気に満ちていた。
……だが、そんな雰囲気とは裏腹にシャノワールの楽屋では大神を除く巴里華撃団・花組のメンバーが集まっていた。真剣な表情を隠そうともせずに……。
「……で、いきなり召集かけたのはどういう理由だい?」
「ボク、市場でサーカスのみんなの食べ物貰わないといけないんだけど……」
ロベリアは不満げな気分を隠そうともせず、コクリコはやや不満そうに口を開く。
そして、2人の視線の先にはグリシーヌが両腕を組んだ姿勢で椅子に腰掛けていた。
「今日集まってもらったのは他でもない。隊長の事だ」
「大神さんのですか?」
「そうだ。前の戦いで隊長は巴里華撃団・花組の隊長として素晴らしい成果を挙げたのは皆も知っているだろう」
「当たり前じゃないですか。わたし達は大神さんと一緒に戦ったんですから」
揚げ足をとられたのが気に入らなかったらしく、グリシーヌは余計な一言を言ったエリカを睨みつける。
ひたすら能天気なエリカも、グリシーヌの殺気すら篭った視線を受けると、短い悲鳴をあげて隣に座っていた花火の後ろに隠れる。
「何か言ったか? エリカ」
「な、何も言ってないです」
グリシーヌの声は穏やかだが、その瞳は全く笑っておらずここでさらに余計な一言を言えば、どうなるかを潜在意識の中に辛うじて残っていた動物的な本能で察知したエリカは、花火の後ろに隠れながらコクコクと壊れた玩具のように首を上下に動かす。
「……話を進めよう。皆、隊長が何故パリに来たのか思い出して欲しい」
「海外に華撃団構想を根付かせると同時に現地の霊的戦力の強化だったかしら」
「そう、隊長はその為にパリに来た。そして、隊長は見事その任務を達成したと言える」
「まさか、そんなわかりきった事を聞かせる為に集めたのか?」
ロベリアの不満そうな声に対して僅かに首を横に振って答えると、グリシーヌは自分に言い聞かせるようにして言葉を続ける。
「隊長は任務を終えれば本来の所属である東京の花組に戻ってしまう」
『ええっ!』
グリシーヌの言葉にエリカとコクリコが大声で反応する。
「ど、どうしてですか! グリシーヌさん」
「言って良い嘘と悪い嘘があるよ!」
「そりゃそうだろ。元々隊長は東京の花組から借りてきてるんだ」
「大神さんは海軍中尉だから、帝国海軍に戻るんじゃないかしら?」
慌てるエリカとコクリコの2人とは対照的に、ロベリアと花火は何を今さらといった表情で冷静に指摘をする。花火の場合はのほほんとしていだけかもしれないが……
「2人とも驚かないの?」
「驚くも何も、予想できることだろ」
「大神さんほどの人材を日本が簡単に手放すとは思えませんし」
冷静な2人にコクリコは驚いたように質問をするが、それもこの2人はさらっと流してしまう。
「事情は飲み込んでくれたな」
「何をする気なの? グリシーヌ」
「分かりきった事を聞くな。隊長をこのまま巴里華撃団に留まらせる方法を考えるんだ」
「……」
「恋は盲目か……」
さも当然のように言い切るグリシーヌにさすがの花火も唖然として言葉を失う。
そして、ロベリアはその光景をどこからともなく引っ張り出してきた紅茶のセットと共に冷ややかな目で見つめていた。
「具体的にはどうするかだな」
「そうですねぇ……」
「ねえねえ、ボク達が失敗すれば任務成功にならないから、イチローはパリにいるんじゃないかな」
「その場合、大神さんの能力不足という事で日本に強制送還ですね」
「花火。さっきから揚げ足ばかりとっているが、そんなに隊長に帰って欲しいのか?」
グリシーヌのやや怒気の混ざった声に対して花火はロベリアから紅茶を受け取りながら、平然と答える。
「そういう訳じゃないけど、大神さんには日本に大切な人がいるかもしれないし……」
「そんな事は無い! 日本の女よりも、私を愛しているに決まっている!」
「この自信はどっから出て来るんだ?」
ロベリアは、自信に満ち溢れた表情で言い切るグリシーヌを完全に呆れた表情で見つめていた。
確かにコレだけのセリフを何の疑問も抱かずに言えるのは、自分に相当の自信が無いといけないのだろうが、ここまで来ると自信過剰を通り越してただのマヌケである。
「そんな事は無いです。大神さんはわたしを愛しています!」
「こいつはこいつで何言ってんだよ」
「エリカさんは元々頭のネジが数本外れてますから……」
「それを言うならお前の親友もだろ」
「そう言われると、そうですね」
グリシーヌに対抗するかのように発言をするエリカの傍らでは、ロベリアと花火が何気にひどい事を言っていた。
だが、自分の事で精一杯の2人は、幸いロベリアと花火の会話は耳に入らないらしく、空中で火花を散らしていた。
ちなみに、途中から会話に参加していないコクリコは、事の成り行きをドアの近くの安全地帯に移動して全てをちゃっかり聞いていたりするのだが、下手に権力者に逆らうとどうなるか程度は分別がついているので、何も言わずに今までの会話をグ・ランマへのチクリ帳と表紙に書かれたメモ用紙にせっせと書き込む事に勤しんでいたりする。
「何を言っているエリカ。隊長を花婿とするのは私の役目であり、世界の必然だ!」
「大神さんとわたしは運命の赤い糸で繋がっているんです。これは神様のお導きです!」
「ぽ……」
「コクリコ、こいつらが言ってたのは赤線引いとけよ」
「は〜い」
電波でも受信していそうなグリシーヌとエリカに挟まれてとりあえず現実逃避を始める花火。
そんな状態の花火を助けようともせず、コクリコのチクリ帳にアドバイスを送るロベリアと、それを素直に受け取るコクリコ。
何かが歪んでいそうな光景である。
「私と隊長が結婚するのはフランス市民……。いや、欧州人全員が望んだ事だ! それを邪魔するのは人では無い!」
「……誰と誰が賛同してんだよ。んな電波な言葉に」
「神様が決めた結婚に反対するんですか? はっ、グリシーヌさんは悪魔崇拝者だったんですね。だから、大神さんとの関係を壊そうと……」
「悪魔崇拝者って……。むしろ、シスターって神様に純潔を捧げるから、結婚しないんじゃ」
電波なセリフを吐き出すグリシーヌとエリカに律儀に突っ込むロベリアとコクリコ。
場所が場所ならば、速攻で病院送りになりそうなセリフを連発するグリシーヌとエリカだが、当事者である大神の意思を全く無視している辺りがこの2人らしいと言えばらしいか……
そんな2人に挟まれて現実逃避をしていた花火だが、ついに再びフィリップの幻想を見るまでにパワーアップしていた。時より彼女の口から漏れる『もぅ、フィリップったら……』という楽しげな声が哀愁を誘うっぽいが、周囲の雰囲気がすでに尋常ではないので、ハタから見ていると品の無い喜劇の1幕のように見える。
「まっ、この連中で喜劇以外にしろって方が難しいけどな」←ハタから見てる人
マトモな神経の持ち主が見たら自分の目を疑ってしまうような光景が繰り広げられているシャノワールは一種、異様な雰囲気に包まれていた。
「まあ、エリカの対処はこれからいくらでもできる。当面の問題はどうやって隊長を東京に帰らせなくするかだ」
「グリシーヌさん。具体的な方法はどうするんですか?」
「外交手段を使って日本から奪い取るが1番現実的だな」
「確かに所詮黄色い猿の国ですから、ロクな外交能力がないでしょうし、その程度は可能ですね」
怖い事を平然と口にするグリシーヌとエリカ。冷静に観察しているロベリアとコクリコの2人も突っ込みを入れる気力さえ失せてしまったようで、何かを諦めた表情でグリシーヌ達を眺めている。
花火の母国が日本だという事を考えると、彼女がトリップしているのはせめてもの救いかもしれない。当の本人は幻想の中で幸せそうにしているのだから、問題無いのかもしれないが……
「しかし、それだけでは完全とは言い難い」
「? じゃあ、どうするんですか?」
「決まっている。こちらで既成事実を造ってしまうんだ」
「!? その手がありましたね。さっすがグリシーヌさんですね」
まるで世紀の大発見をしたかのように嬉々とした表情で声をあげるエリカと、無意味に胸を反らすグリシーヌ。
2人は顔を見合わせると、全力ダッシュで外へ飛び出して行く。
2人の姿が無くなると、コクリコはチクリ帳を持ってグラン・マの元へ走り、ロベリアは1人花火に目を向ける。
「……で、いつまでそんな事してるつもりだ?」
「あら? 気づいておられたのですか?」
「当たり前だろ。あたしを誰だと思ってんだい?」
「懲役1000年の大罪人には敵いませんね」
ロベリアは、いつの間にやら普段の微笑みを浮かべた表情に戻っている花火を見ながらため息を洩らす。
「それにしても、良いのかい?」
「何がです?」
「あの2人だよ。隊長のとこ行ったんだろ」
「別に問題無いですよ」
「へぇ、たいした自信だね。さすがは『巴里華撃団・花組副隊長殿』だ」
「大神さんはあの2人程度の誘惑には決して負けない『朴念仁』ですから」
「そういう確信があるなら、先に言っとけよ」
完全に呆れた表情になっているロベリアに対して、花火は普段の微笑みを浮かべたまま紅茶を口に運びながら平然とこう言った。
「日本には『他人の不幸は蜜の味』という諺があるんですよ」
<管理人の感謝の言葉>
アス:本当にありがとうございました。(深々)
アス:この作品はブルーシャーク様のHPで私がキリ番を踏みましたのでリクエストした作品です。
アス:そして、私はサクラ大戦シリーズが好きですので、サクラ大戦でリクエストしました。
アス:そして、花組のメンバーの個性が面白く現れておりまして、笑い無しでは読めませんでした。(笑)
私的には花火様がいい動きをしていたと思います。最後で決めてくれましたし。
アス:このような素晴らしいSSをいただき、ありがとうございました。これからも末永くよろしくお願いいたします。